BLOG

RIE MIYATA

新鋭ブランド「ELIN(エリン)」を手がける榎本実穂氏へインタビュー

pic1

こんにちは。ファッションジャーナリストの宮田理江です。

「ガリャルダガランテ」で取り扱うブランド「ELIN(エリン)」のディレクター、榎本実穂(えのもと・みほ)氏はファッション業界での経験が豊富です。2015年春夏のデビューというまだ若いブランドですが、業界内の評価が早くも高まってきています。春夏シーズンの立ち上がりを前に、ブランドの成り立ちや春夏のムードなどをうかがいました。

pic2

Q:「ELIN」というブランド名の由来を教えてください。

A:「エッセンシャル(Essential=欠かせない、本質的な)」と「マスキュリン(Masculine=男性的な)」を合わせた造語です。私の好きな物はエッセンシャルなものやベーシックなもの。そして、トラッドベースであり、素材がいいもの、シンプルでミニマルないいもの。縫製がしっかりしていて、パターンがちゃんとしているといった点も大切です。

マスキュリンな目線も意識しています。自分には両方あるんです。今までバイイングしているときもそうだったし、洋服を見るたびに、目線がそこに行くのを感じていました。ELINは「女性のエッセンシャルになってほしい」という願いも込めてネーミングしました。私の分身のようなブランドとして表現できたらいいなと思います。

Q:ブランドのコンセプト、持ち味はどのようなものでしょうか?

A:マスキュリンをベースに、エレガントでナチュラルなデザインを提案しています。着ていて女性がきれいに見えることに重点を置いています。「男勝り」という感じのマスキュリンではなく、むしろ女性らしい部分が譲れない感じ。デコラティブ、華美ではなく、一見分かりにくいような男前のこだわりが肝心。裏地とか縫製とか。女性らしい素材を使ったり、その逆もアリです。

pic3
pic4

Q:ELINのキーアイテムはどんなものですか?

A:袖が長いリブカフニット(写真でディレクター本人が着ているニット)はELINのアイコンアイテムです。私は夏でもニットを着るんです。キャミソール、ニットとパンツが私の主なワードローブ。ELINのボトムスはパンツがメイン。私のワードローブはパンツばっかり。きれいに見えるパンツを意識してつくっています。足首の細い所を見せたり、腰周りをすっきりと仕上げたり。ポケットの切り替えも工夫しています。コートはローブを毎シーズン、つくっています。素材やポケット位置を変えたり、スリットを入れてみたりと、素材やディテールを変えて出しています。

pic5
pic6

パンツの腰回りをタイトにしているのは、日本人女性の体型に合わせて。インポート物のパンツがなかなかフィットしないのは、やはり体型が違うから。そもそも私自身の体型に合うパンツが欲しかったんです。腰骨の部分に切り替えを施して、腰周りがきれいに見えるようにしました。太ももは隠してメリハリを出しています。

デニムが大好きなんです。Gジャンからインスパイアされた、Gジャンライクに使えるアウターはELIN風のアレンジを利かせました。リブカフニットで合わせてもいい感じに整います。ELINの展示会では、私自身がフィッティングモデルをやりながらバイヤーさんたちにプレゼンテーションしています。そうすることでよりリアリティーが伝わるようです。

ネームタグはあえて粗野な感じに仕上げています。このネームタグもシンプルに見えてとてもこだわっていて、何回もつくり直しました。2点留めは洋服にあまり影響を与えないよう、手作業で縫い付けています。

pic7

Q:ブランド名に「Male and female who wish to wear it.」と添え書きされています。どういう意味でしょう?

A:私がもともと持っているマスキュリン目線は男性の服飾史へのリスペクトと言えます。ファッションだけでなくすべてにおいて目の肥えた男性、紳士、ジェントルマンをリスペクトしています。そういった男性がELINを自分のパートナーに着せたいと思ってもらえるような存在をイメージしています。服をよく知る男性が「これいいものだね」「この裏地、いいな」と、パートナーに薦めてくれる感覚です。実際、男性バイヤーがELINの服をそう言ってくださるので、ありがたいことだと感じています。

Q:男性がパートナー女性に着てほしいと考える服は、一般的にはセクシー、エレガントな服だと思われやすいところがありますが、ELINの意図する「男受け」は意味が違うわけですね。

A:単に肌が透けてセクシーといった感じではなく、もっと計算された肌の露出で色気を薫らせるような感覚でしょうか。女性ならではの細さやふくらみというところは強調しつつ、隠したいところは隠す工夫を施しています。首は詰まっているけれど、ボディーラインにはフィットするとか、フォルムはバギーだけれど足首は見せるといったバランスです。上品な女性らしさや、節度のあるエレガンスを忘れない目配りも利かせています。

イメージで言えば、居酒屋ではなくて、お寿司屋さんに連れて行きたいなと男性に思ってもらえるような服とも言えるでしょう。男性バイヤーに実際、「これを着てたら寿司屋に連れて行きたいね」って言われました。ジェンダーレスと言えばそうなのですが、目の肥えた男性に好感を持ってもらえるような服ではありたいと思っています。

以前にバイヤーとして勤めていたセレクトショップで、男女両方のアイテムを一緒に扱っていた経験も関係しているのかも知れません。メンズ服が好きで、メンズショップにもよく行きます。テイラー(仕立て紳士服専門店)を訪ねることもしばしば。図書館でメンズの服飾史の本を読んだりもします。メンズ服へのリスペクトは深いです。

これまでの日本人の装いは海外から見ると、デコラティブでギミックな印象があった気がしますが、今は飾り気がそぎ落とされて、ミニマルが支持されるようになってきました。メンズの雰囲気も濃くなっています。私はもともと男性服飾史に興味があり、その一方でクチュールっぽいエレガンスも好きでしたので、今のジェンダーレスという流れをうまくとらえていきたいと思っています。

Q:ELINの服を着る女性像、着ている姿のイメージはどういった感じでしょうか?

A:意識している女性像は、譲れない女性らしさを感じさせる女性です。私は「凛」としている人が好きです。姿勢のように内側から出てくるものが大事だと思います。ブランド立ち上げにあたって、コンセプトを考えていたとき、何かの本を見ていて印象深く感じた写真があったんです。白いランプシェードがあり、そこにいくつか穴が開いていて、その穴からパーンと光が出ているとう構図でした。内から出る美しさに感銘を受けました。そういうイメージに近い人たちが着て様(さま)になるような服をつくりたいと思っています。

いろいろなキャラクターを兼ね備えている人で、たとえば決して男勝りではないけれど、媚(こ)びない女性。でも、気配りができたり、コミュニケーションが巧みだったりと、女性らしさもきちんと持っている。つやっぽいだけではなく、エレガント。知性が備わっていて、気品が漂う。そういう多面性を帯びた女性をイメージしています。そういった女性が着て恥ずかしくない服。「いい物、着ているね」と素敵な人から言われるような服をつくりたいですね。

pic8

Q:ファッション業界で長い経歴を持っておいでです。これまでのキャリアを簡単に教えてもらえますか?

A:ファッション業界のスタートは外資系のブランドからです。売り場に立った後、MD(マーチャンダイザー=商品開発、販売管理などを総合的にこなす職種)になりました。アメリカのデザイナーとコンタクトしながら、日本向けの商品を企画し、ものづくりの背景を学びました。

8歳上の姉の影響もあって、小さいうちからファッションが好きになり、小学校から『non-no(ノンノ)』を読んでいました。アメカジ、トラッド、古着などが好きな子でした。古着屋さんには小学生の頃から通っていました。

自分で探求するタイプです。あれこれとコーディネートを考えるのは、昔から好き。渋谷や原宿のショップをよく回っていました。見つける、触るという感覚が好きなんです。フリマーケットにも足を運んでいました。

その後、大手のセレクトショップに移りました。ここでは主にバイヤーを務めました。単独のブランドだけではなく、いろいろなブランドに触れることができたのは、貴重な経験でした。たくさんのブランドをひとつの箱で扱うセレクトショップのバイヤーは魅力的な仕事だなと思いました。時間的には大変でしたが、様々なブランドを発掘できた楽しい仕事でした。

人生設計は割と早くから考えていて、33歳で独立したいと決めていました。だから、セレクトショップに移るときに、そんな風なことをあらかじめ認めてもらうような形で入社したんです。自分の背中を押す「動機づけ」のようなものでした。自分のブランドを立ち上げるきっかけになったのは、仕事関係で出会った人と意気投合したことでした。人との出会いには恵まれていると感じます。

pic9

Q:今回、ELINを本格的に扱うことになった「ガリャルダガランテ」には、どのような印象を持っておいでですか?

A:ガリャルダガランテのイメージは、表参道のショップに入って、しばらく時間を過ごして、出てくるときにはトータルコーディネートが出来上がっているといったものです。ふらっと入って、ショップからの提案に身を任せていたら、洋服だけではなく、ハットから靴まで、気が付いたら素敵なコーディネートに仕上がっていたという感じ。セレクトや置き方、ディスプレイなどにそう思わせるところがあります。

ショップスタッフの着こなしがおしゃれで、とてもやわらかくてフレンドリーな雰囲気です。みなさんのまじめな姿勢が印象に残ります。販売員の個性とお店の雰囲気がなじんで、居心地のよさが生まれています。ディレクションがスタッフ各自にまで行き届いている感じがあります。でも、置いてある商品は意外にエッジが効いているものもあり、ミックスがすごく上手。それを自分らしく生かすコーデを教えてもらえるショップですね。

ミックス感でコーディネートを提案する姿勢が気に入っています。ELINの服も全身をELINで決めるのではなく、ガランテさんのオリジナル物と組み合わせたり、他で買い付けたブランドなどを組み合わせたりして、「これを合わせるといいよ」とどんどん提案していただけたらうれしいですね。顧客に大人の女性が多いショップだから、この機会にそういうお客さんにELINを知ってもらえればと思います。

Q:販売職やバイヤーという経験は、今のELINのデザインに生かされていますか?

A:もともと私の軸足は小売りにあるので、一番大切にしてきたことは、お店のスタッフとのコミュニケーションです。売り場のみなさんの力になれたらと思います。ショップを通じてファンを増やしていけたらいいなと考えています。買う側の審美眼が養われた結果、本当に自分が身に着けたい物が分かる人が増えてきていると思います。そういった人たちがELINの服を1点、ワードローブに加えてくれるような服をつくりたい。

pic10

Q:デザインするにあたっての主なインスピレーション源は何ですか?

A:私の今の「気分」が大きいですね。トレンド分析はもちろんするのですが、それよりも自分の中から導く気分が大事。自分の分身みたいなブランドなので、普段の生活から着想することも多いですね。前の仕事がバイヤーだったこともあって、トレンドを読む習慣がしみついています。次にこんなのが来そうという見込みを立てたうえで、自分の好きな要素をエッセンスとして加えていきます。

図書館が好きです。六本木ヒルズのアカデミーヒルズの空間もお気に入り。今は仕事でオフィスにいる時間が長いので、デスクでボーッと考えをふくらませることも多いです。ファッションは見るのも好きなので、歩いているとあちこちのショップに入ってしまいます。海外ではヨーロッパ、特にパリとミラノが好みに合っています。海も好きです。

pic11

Q:最後にガリャルダガランテの顧客に向けてメッセージをお願いします。

A:上質な物はもちろん10年使うし、それはいいことです。でも、女性は身に着ける品で、簡単にテンションが上がり、明日への活力にもなるもの。それは生きていくうえで、重要なことなのです。自然と笑顔になれるから。ELINは服以外に靴もつくっています。ネームや糸にもこだわって、納得のいくものをつくるために手間暇を惜しんでいません。フィッティングを全部自分でやっているのも私のポリシー。ガリャルダガランテはすごく雰囲気のいいショップだから、さらに、ELINを着てもらってテンションを上げてもらえたらうれしいです。

■取材を終えて
榎本氏の明確な人生設計は見習いたいと感じる人が多いでしょう。バイヤー時代につちかったバイイングのセンスがELINのデザインでも生かされています。トレンドを熟知している点もプラスに働いています。「買い物好き」というのは確かで、この日の午前中にインタビューして、夕方の青山でばったりと遭遇。大きな買い物袋を提げて楽しそうなお姿を拝見。2015年春夏のスタートとしては異例の速さで有名セレクトショップのバイヤーの目に留まり、ファンを増やしつつあります。おしゃれ好きの気持ちを揺さぶるのは、創り手自身がおしゃれ好きだからなのでしょう。

NEW ENTRY

Shop Staff Blog