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RIE MIYATA

現代アートの巨匠、「マーク・ロスコ」をガリャルダガランテ流に

 

こんにちは。ファッションジャーナリストの宮田理江です。

ファッションの世界で近年起きている大きなうねりに「アートとの接近」があります。現代アート作品をモチーフにした「着るアート」の提案が相次ぎ、アート感覚とおしゃれが融け合いました。かねてからアートへの共感を大事にしている「GALLARDAGALANTE(ガリャルダガランテ)」はルミネ新宿店で月ごとにテーマを決めて開催している「SERENDIPIT(セレンディピティ)」で、8月のテーマに「LIFE OF ART」を選びました。ファションだけでなく、様々なアイテムをキュレーションして、新しい価値との出会いを提供していくセレンディピティ。今回は7つのブランドそれぞれがインスピレーションを受けたアーティスト7人にちなんでオリジナルアイテムを企画。思い思いのセンスでアートを表現したアイテムが集められました。

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ガリャルダガランテが用意したのは、アメリカ現代アートの巨匠、MARK ROTHKO(マーク・ロスコ、1903~70年)に着想を得たアイテムですロスコはアンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインらが巻き起こしたポップアートに先立つ時期の50~60年代に抽象表現絵画の新たな地平開いた業績で知られています。「抽象絵画」と聞くと、何だか難しそうな印象を持つ人も少なくないようですが、ロスコの作品はちょっと違いす。もちろん、彼の手法や考え方を知っていて困ることはないのですが、予備知識がゼロでも、ロスコ絵画は十分に楽しめます。

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ロスコの絵にはいくつかの特徴があります。第一に「大きい」。一般的な絵画は寸法の面で言うと、人間が作品を見るという感じのサイズ感が多いのですが、ロスコの場合は正面に立つと、キャンバスに呑み込まれるかのような巨大な作品が結構あります。「鑑賞する」という気負いを持たずに、スッと作品の中に取り込まれるような感覚になれるのは、大きな魅力です。

第二に「四角い」。長方形のモチーフを3つぐらい描く作品で知られています。でも、各モチーフは真四角ではなく、縁はにじんだようなタッチでぼかされています。サイズも色も異なる「やや四角」の物体がキャンバス内にぼんやりと浮かんでいるような見え具合です。

第三に「無題が多い」。美術作品には大半の場合、タイトルが添えられています。描いた題材をそのまま示すケースや、作品のイメージを伝えるネーミングがありますが、ロスコ作品はタイトルなしがかなりあります。タイトルは作品世界を理解する手助けになる場合もありますが、絵以外の「文字情報」に引きずられてしまいがち。自分の作品と鑑賞者の間にはさまる余計なノイズの存在を嫌ったとされるロスコがタイトルさえ排除したのは納得できる気がします。

このような特徴を持つロスコ作品は、必ずしも何かを具体的に再現しているわけではないので、自分の好きなように見ることが許されます。微妙な色の響き合いは、絵を見ているという意識から解き放ち、「瞑想」に近い心持ちに誘います。

ロスコは旧ロシア帝国(現在のラトビア)の出身で、ユダヤ系の家庭に育ちました。見る人を選ばないロスコの作風はグローバルに評価されていて、現代アート作品としては異例の高値で取引される理由ともなっています。世界的オークションでは現代アートの史上最高値記録を繰り返し更新していて、1作品で80億円を超える落札例も現れて大きなニュースになりました。

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実はガリャルダガランテにとってロスコは縁の深い画家です。たとえば、「INVITATIONTO THE NORDIC」というシーズンテーマを掲げた2012-13年秋冬コレクションでは、「オーロラの輝く夜空の濃紺と針葉樹の緑」「広野に広がる稲穂の黄金色」「暖炉の温かさを感じる赤やオレンジ」などのテーマカラーを選び、ロスコ作品からのインスピレーションを印象づけました。ロスコ作品では色調が徐々に変化するグラデーションが多用されていますが、当時のカタログカバーも縦に色が移ろう配色を用いまた。

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さて、今回のセレンディピティブースに並ぶ、「ロスコちなみ」のアイテムは裾にペプラムを配したインナー付のニットトップスです。後年のロスコはくすんだ色や渋い色を好んで用いました。このニットトップスもダーキーなトーンを生かして、穏やかな着映えに仕上げています。複数の色を重ねて、画面に深みを出すロスコ流にならって、カラーも重なり合いや響き合いを計算してあります。ガリャルダガランテの岩崎理恵デザイナーが手がけました。

色は2パターンを用意しました。ベースがブラウンオレンジでインナーがベージュ、ベースがネイビーでインナーもネイビーの2種類です。ゆるめに編んだニットにほのかな光沢を帯びたサテンを重ねるレイヤードは風合いの違いが際立つ仕掛け。ニットの編み目越しにインナーがうっすらと透けるのでやさしげな重ね着ルックに映ります。

最初からニットトップスとインナーがセットになっているから、手間いらずで着こなせます。袖に程よいボリュームがあるので、のどかな風情を醸し出してくれます。ゆるい編み方は風を適度に通し、夏の終わりからでも心地よく着られます。

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ニットは上質なモヘア糸で編まれています。モヘアはアンゴラヤギの毛。モヘアの毛質はヤギが育つにつれて太く硬く変わっていきますが、今生後半年以内の子ヤギからとれた最高ランクの細毛「スーパーキッドモヘア」を使用。だから、肌当たりがソフトで、見栄えも穏やか。糸を撚り合わせていく手法も、ロスコの色を重ねていく技法に通じるところがあります。

今回のセレンディピティは一足早い「芸術の秋」のムード。残暑の時期から着始められるアイテムがそろっているので、秋を待たずにアート名装いを楽しんでみてください。

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