RIE MIYATA
鉱物のジュエリーを特集 6月のセレンディピティ 光で変わる表情
こんにちは。ファッションジャーナリストの宮田理江です。
陽の光がまぶしく感じられる季節となりました。「GALLARDAGALNTE(ガリャルダガランテ)」のルミネ新宿店が月替わりでテーマを決めている特設ブース「SERENDIPITY(セレンディピティ)」は6月のテーマを「SHINE=光」をイメージに選び、鉱物に光を当てた企画を打ち出しています。光と鉱物という取り合わせに、やや意外感がありますが、ジュエリーでおなじみの各種ストーンは光の当たり加減に応じて輝きや表情を変えます。今回は光の効果を巧みに取り入れているジュエリー6ブランドと、「御菓子丸」の和菓子をご紹介します。
実は鉱物をテーマに据えた企画はガリャルダガランテがずっと温めていたプロジェクトでした。自然石はもともとオンリーワンの存在。火山活動や堆積など、様々な出来事が積み重なって生まれた結果、表情は同じものが二つとないのです。奇跡とも呼びたくなるその成り立ちは「セレンディピティ=偶然の素敵な出会い」そのもの。しかも、光の当たり具合次第で一瞬ごとに別の顔つきを見せる、光と石のマリアージュはこれまた偶然の産物。セレンディピティで取り上げるのにこれ以上ないテーマでした。「SHINE」という言葉にはそういう意味が込められています。
◆KYOKO TSUDA(キョウコ ツダ)
鉱物と聞くと、ダイヤモンドやゴールドのようなストーンや金属を思い浮かべがちですが、砂や土も立派な鉱物。土からこしらえる陶器も鉱物から成り立っていると言えます。つまり、鉱物の範囲は幅広いのです。「KYOKO TSUDA(キョウコ ツダ)」のイヤーアクセサリーは陶器を用いて、穏やかな風合いを寄り添わせています。主張しすぎない形と色はヴィンテージライクな風情があり、服との相性を選びません。
ハンドメイドで制作しているうえ、同じものがありえない土が素材だから、二重の意味で一点物です。アンティークパーツを好んで使うことも、タイムレスな質感が漂う理由。デザイナーは東京芸術大学でグラフィックデザインとジュエリーを学んだのち、土の持ち味を引き出しつつ、現代的なムードを兼ね備えた作品を生み出しています。
◆TO LABO(トゥラボ)
アクセサリーブランド「TO LABO(トゥラボ)」のデザイナーを務める大寄智彦さんは宝飾産業が歴史的に盛んな山梨県の出身です。甲州水晶貴石を扱う家に育ち、ご自身も貴石細工の技を身につけています。地元に古くから伝わる貴石細工を発展させ、伝統工芸とアートセンスを交差させたジュエリー制作を手がけています。今回のセレンディピティには不透明水晶を使ったネックレスやリングを出展。澄み切っていないからこその微妙な屈折がかえって「光」を感じさせます。
ブランド名の「TO」は「~のための」という意味で、贈る人、身につける人への心配りを示しているそうです。山梨県は水晶の産地として知られ、今でも水晶加工の技術が息づいています。大寄さんは水晶原石の産地であるアフリカに出向いて、現地の人たちに加工技術を教える活動もしていて、伝統に安住しないクリエーションを続けています。
◆Sushikatten(スシカッテン)
ガラスの主原料となるケイ素も鉱物の一種です。ガラスアートには長い管を口で吹いて膨らませるイメージが強いのですが、「Sushikatten(スシカッテン)」の作品はそうではありません。粉状にしたガラスを型に流し込んで固め、熱を加えた後、型から取り出し、磨いて仕上げます。長い歴史を持つこの「パート・ド・ヴェール製法」ならではの風合いが持ち味です。ブランド名はデザイナーのMio Toyodaさんが好きな「寿司」と「猫(katten ・デンマーク語)」から取られています。
今回はリングとネックレスが出展されています。ガラスは透明と思われがちですが、こちらの作品はカラーパウダーやラメなどの効果で複雑な表情を帯びています。指輪のフォルムも輪郭が不均等であったり、不規則に角張っていたりと、「いびつの美」を宿しています。熱が起こす魔法のおかげで、同じ品は二度と生まれない唯一性も特別感をまとわせました。割と量感のある形や、ナチュラルな雰囲気の質感はジェンダーレスに使いこなしやすそう。穴の開いているネックレスはリングとしても使ってほしいとのこと。
◆maquico(マキコ)
ジュエリーは一般的にアクセサリーとして身につけやすいよう、決まった形にカットされます。ところが、「maquico(マキコ)」のハンドメイドジュエリーは原石の形をできる限り生かし、余計な整形を加えていません。原石のフォルムが生きて、穏やかでナチュラルな表情が生まれています。真ん丸や長方形といった見慣れたストーンとは違って、ゆがんだ形の原石には人なつこさが感じられます。やさしげなたたずまいのアンティークパーツを引き合わせて、落ち着いたたたずまいに仕上げました。
華奢なチェーンやピカピカしていないリング爪は気負わない装いにマッチします。必ずしも透き通っていないストーンにも、飾らない気分がうかがえます。やたらとゴージャスなジュエリーはシーンを選んでしまいがちですが、「maquico」のジュエリーは普段使いにも無理なくなじみそう。丁寧な手仕事感は、ずっと眺めていても飽きないほど。金沢美術工芸大学や日本宝飾クラフト学院で学んだデザイナーの川原田眞規子さんならではの、アートピースのような作品はすべてが一点物です。
◆MARIHA(マリハ)
パリ在住の上田真理絵さんが手がけるジュエリー・デザインプロジェクトが「MARIHA(マリハ)」。天然石の美しさを引き出すクリエーションが高く評価されていて、かねてからガリャルダガランテで取り扱いのあるブランドです。天然石を支える土台部分にはすべて18金を使っています。天然石の穏やかなムードと、きらめきすぎない18金は好みの着こなしに交わらせやすいから、プレゼントにも向いています。実際、ガリャルダガランテではギフトとしても人気が高いそうです。
日本の伝統的な美意識「花鳥風月」を活かしたデザインは装いに気品をもたらします。自然の恵みである鉱石は特別な力を宿していると、古くから考えられてきました。涙のしずくを思わせるフォルムを描く、今回出展のジュエリーにもお守りのような神秘性が感じられます。デザイナーは自ら貴重なストーンを選び抜き、ミニマルで繊細なジュエリーに仕上げています。
◆MELISSA McARTHUR JEWELLERY(メリッサ マッカーサー ジュエリー)
今回のセレンディピティで唯一、海外から選ばれたのが、ロンドン発のジュエリーブランド「MELISSA McARTHUR JEWELLERY(メリッサ マッカーサー ジュエリー)」です。ガリャルダガランテでは長くお付き合いのあるブランドで、細いワイヤーワークと大きめの天然石を組み合わせたデザインに定評があります。華奢感のある金属製ワイヤーが、ストーンのナチュラルさを引き立てています。
ファッションの名門校、セントラル・セント・マーチンズを卒業しているデザイナーは1998年にブランドを設立していて、来年で20周年を迎えます。ワイヤーが形作るラインはダイナミックでありつつ、ほのかな曲線を描いていて、着こなしと自然に融け合います。大胆に耳を飾るアクセサリーは程よくアイキャッチーで、装いのムードメーカーになってくれます。素肌になじむ色味のストーンが選ばれていて、どんなコーディネートとも好相性を発揮します。
◆御菓子丸(おかしまる)
鉱物にちなんだ創作和菓子を用意してくれたのは、京都の菓子工房「御菓子丸(おかしまる)」。和菓子作家の杉山早陽子さんが立ち上げた、クリエイティブな菓子工房です。こちらのアートライクな見栄えの菓子は、名付けて「鉱物の実」。楊枝に使うクロモジの枝の先に、半透明で黄色い、鉱物の結晶のようにも見える多面体の菓子を刺してあります。東京都内ではなかなか手に入らない品で、すぐに売れてしまいましたが、6月15日に再入荷する予定だそうです。
「鉱物の実」は「果物の化石」という見立て。もともとクリアーな寒天には鉱物のようなニュアンスがあります。その寒天をベースに、季節のフルーツで風味を添えています。今回は甘夏を使って、さわやかな味わいに整えました。口を付けるのがもったいなくなってしまうほど、きれいな見栄えですが、もちろん味も格別。シャリシャリ感とプルプル感の両方が楽しめます。店舗を持っていないので、取り寄せが難しい「御菓子丸」の味に触れることができる貴重な機会です。
セレンディピティの会場レイアウトをこれまでとは少し変えて、ギャラリーのような構成にしています。ジュエリーショップは一般的に対面式の接客が多く、訪れる側からすると、時に圧迫感を覚えるところもあるでしょう。今回はジュエリー主体の企画ではありますが、そういった窮屈さを遠ざける意味もあって、オープンな会場レイアウトを意識しました。薄着になっていくシーズンにはアクセサリーの存在感が大きくなります。天然石のやわらかい表情はソフトなキャラクターも印象づけてくれるから、この機会にお気に入りのジュエリーとの「偶然の素敵な出会い」を成功させてみませんか。