RIE MIYATA
エフォートレスな「きれいめクチュール」 ハンガリー発の「AERON(エアロン)」にフォーカス
こんにちは。ファッションジャーナリストの宮田理江です。
春は仕事環境や人間関係が変わることが多いから、おしゃれもちょっとイメージチェンジしてみたくなります。「GALLARDAGALNTE(ガリャルダガランテ)」のルミネ新宿店」の月替わりブース「SERENDIPITY(セレンディピティ)」も、3月はちょっとした「冒険」を提案しています。
日本ではまだあまり知られていない、中央ヨーロッパの国、ハンガリーのブランド「AERON(エアロン)」にフォーカス。奇をてらってはいないのに、どこか目新しく感じられる、独特のテイストを持つこのブランドについて、今回はご紹介していきましょう。
エアロンは女性デザイナーのEszter Aron(エスター・アーロン)さんが2011年に立ち上げた、比較的若いブランドです。彼女は1981年、ハンガリーの首都ブダペストで生まれました。
クリーンでシャープなイメージを好むミニマル志向のクリエーションに持ち味がありますが、それでいながらも、細部のこだわりや大胆なアイデアが彼女の作風を特別なものにしています。布地への興味や手仕事への愛着もエアロンの個性を支えています。
ブダペストでアートと経営の両方を学んだエスターの経験もエアロンのムードに独特のムードを寄り添わせているようです。母国で最も大きなファッション企業で10年間働いた後、自らのブランドをスタート。エフォートレスとエレガンスを兼ね備えたテイストや、伝統的なテーラーリング技術の再構成、ミニマルと官能美の同居などの特徴を備えたエアロンが誕生しました。ハイウエストのパンツ、アシンメトリーのコート、オーバーサイズのセーター、無駄のないドレスなどはエアロンの代名詞的なアイテムと言えるでしょう。
実はエアロンはガリャルダガランテで以前から人気の高いブランドです。顧客向けの受注会でもご指名買いが相次ぐそうです。アートを学んだデザイナーだけに、モチーフ使いが巧み。だから、あまり柄物を着ない人にもエアロンの柄は気に入ってもらえるのだそうです。
フォルムはサイズレスでルーミー(ゆったり)なのに、見栄えはきれいめ。レイヤードに取り入れやすいのも出番が多くなる理由。生地(テキスタイル)がよく吟味されているうえ、縫製も丁寧で、上質感を求める日本人の好みにもマッチしています。
モード感とリラクシング気分の程よいバランスも試したい気持ちに誘います。働く女性がちょっとトレンドを取り入れたいときにも頼りになります。
「素材にこだわる」とうのは、ありきたりの褒め言葉ですが、エアロンの場合、超高級素材を意味しません。むしろ、普段使いで取り扱いしやすいかどうかを目安に厳選されています。やたらと引っ掛かったり、シワになりやすかったりといったトラブルが起きないよう、目配りを利かせています。デイリーにまとううえでうれしい気配りです。
たとえば、見た目は天然スエードなのに、実際は人工というエコスエードを好んで用いています。体の線を拾いすぎない、ゆったり感のあるシルエットは穏やかな輪郭を描き出します。程々のフェミニン感も帯びていて、ルーズに見えないのも、日本人の着こなしニーズになじむようです。
鳥の羽根をイメージしたモチーフしたシャツドレスはカッティングが冴えていて、上品なたたずまい。正面のボタンを全部はずせばライトコート風に羽織れます。ベルトでウエストマークしてめりはりを出すアレンジも可能。パンツの上から重ねて細感を引き出すコーディネートも試せます。
上品なフェザープリントのスカートは、柄物が苦手な人にも挑戦しやすいはず。こちらのスカートは正面からはシンプルに見えて、実は前後にもう1枚、生地を垂らしてあるという、ギミックを利かせた仕立て。布がたっぷりかぶさっていて、ファニーで優美な着映えに仕上がります。ジグザグになったプリーツスカートの裾も装いにリズムを乗せてくれます。
チューリップのような裾がカットされたスカートはエアロンの持ち味が存分に発揮された1着。一見、シンプルな形ですが、実はかなり大胆なこしらえ。センター部分やサイドの深いスリットからから脚がチラリとのぞきます。奇抜ではないけれど、ダイナミックな仕立て。不ぞろいの裾が装いにドラマをもたらします。このままでも見栄えがしますが、デニムの上から重ねたり、ロングのワンピースと組み合わせたりしても素敵な見え具合に整えられます。
ベルスリーブになったブラウスはこの春夏に盛り上がりつつある、女っぽさが濃いめのトレンドにぴったり。袖部分に添えられた紐は結んでもいいし、そのままだらんと垂らしてもおしゃれ。丸い襟ぐりがノーブルなお嬢様気分を呼び込みます。
一番の見どころは背中側にあります。バックは背骨に沿って大きく割れています。素肌がのぞくヌーディーな演出ですが、長く垂らしたリボンの効果もあって、上品で健やかなムードが薫ります。タンクトップやビスチェ、ワンピースなどを中に着れば、涼やかなレイヤードルックが完成します。
美しいカッティングからは、デザイナーの職人的な腕前がうかがえます。オフショルダーのニットは裾に仕掛けがあります。単なる切りっぱなしではなく、裾を結んで、いろいろなアレンジができます。こぶ結びしやすいよう、位置や長さが計算されています。
正面で結ぶほか、結び目位置を少し斜めにずらしたり、脇のほうで結んだり。フロントで一部だけウエストインする「ゆるイン」にしてもごろごろしません。ネックラインも程よい開き具合で、首周りからデコルテにかけてがきれいに見えます。両肩がのぞくワンピースの上から重ねて、上品な肌見せにも整えられます。ウエスト位置が高く見えるから裾をそのままウエストアウトしても、斜めにカットされた裾が自然体のムードを醸し出してくれます。
ファブリックに注ぎ込む熱意がオリジナルの風合いを備わらせています。たとえば、麻と綿の混紡で仕立てたジャケットとパンツのコンビネーション。一般的なデニムジャケット(Gジャン)はカジュアルでボーイズライクな見た目のせいで、好みが分かれるアイテムです。こちらは、サファリルックを思わせるニュートラルカラーで仕立てたら、きれいめのニュアンスに。見慣れたインディゴとは違って、オフィスカジュアルにもなじみそうな着映え。
袖口を折り返すと、微妙に違う色が見えます。胸フラップも別色。パンツも前後で色が異なります。コントラストのはっきりしたバイカラー(2色使い)ではなく、色の濃淡が異なる程度のツートーンなので、主張が強すぎません。光の加減で見え具合が変わるバイカラーは上品なアクセントになってくれます。
日本人好みの控えめなフェミニンムードは自在の着こなしに誘います。特に2018年春夏はミニマリストというルーツに立ち返っているから、きれいめのスタイリングになじみます。クリーンでベーシック。そこにリラックス感が忍び込み、伸びやかな着姿に。適度なクチュール感があるおかげで、手持ちワードローブに1点差し込むだけで、全体がエフォートレスな風情にまとまります。
フェザープリントのシャツドレスを羽織らせてもらいました。前を開けてコート風にオン。袖先に別布が垂れ下がっているといった、遊び心を感じさせるディテールが随所に施されています。くつろいで着やすいのに、きれいめな印象を生むシルエットが素敵でした。カフス布を結んだり、上からベルトを巻いたりと、何種類ものアレンジが楽しめそうだから、着回しパターンも豊富。どんな着方を試しても、だらしなく見えにくいのもうれしいところです。
さりげない工夫があちこちに盛り込まれている点は、細部にこだわる日本人向きのデザインだと言えるでしょう。無用に飾り立てないミニマル寄りのシルエットでありながら、ちょっと冒険も楽しめるので、やりすぎを避けながら、ありきたりの見栄えにも陥らない、「きれいめクチュール」の装いはこれからのシーズンに、新しいムードを呼び込んでくれるはずです。