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2012. 08. 14

ファッション展覧会からつかむ12-13秋冬の着こなしトレンド

こんにちは。ファッションジャーナリストの宮田理江です。 過去にも充実したファッション展覧会を開催してきた東京都現代美術館(MOT、東京都江東区)で2012年10月8日まで、日本ファッションをテーマに据えた「Future Beauty 日本ファッションの未来性」展が開催されています。 過去30年間のジャパニーズファッションの革新の軌跡をたどる意欲的な企画です。実に意外なことですが、日本ファッションを本格的に回顧した大型展覧会はこれが初めてだそうで、アート好きにもおしゃれ好きにも見逃せない展覧会と言えます。 川久保玲、山本耀司の両氏が同時にパリコレクションに鮮烈なデビューを飾ったのが1981年の出来事。そこから30年の間に、日本ファッションは世界に大きな影響を与える存在になりました。 同時に、世界4大コレクションとは異なる独自の進化を遂げて、その動向は世界のモード人が注視するまでになっています。 日本のファッションが示してきた創造性を振り返る大規模な展覧会です。先にロンドン、ミュンヘンで海外巡回展が開催され、高い評価を得ました。日本での凱旋開催に当たっては、さらに新たな作品を加え、日本ファッションの特質がくっきり浮かび上がるような構成にバージョンアップされています。 80年代に大きなムーブメントを作った三宅一生氏、川久保氏、山本氏の3人を筆頭に、彼らに続く世代を合わせて約35組のデザイナーの、約100点の作品を通して、日本ファッションの30年史を一望するという、中身の濃い展示になっています。世界に衝撃を与えた三宅、川久保、山本の3氏だけではなく、新進気鋭の若手や実力派の中堅デザイナーにも目配りの行き届いた内容になっていて、「Future」というタイトルに恥じない、日本ファッションの近未来まで見通せる構成です。 見どころはアートとしてのファッションだけではなく、12-13年秋冬の装いをインスパイアしてくれるところにもあります。今回の展覧会を手がかりに、この秋冬の着こなしを予習していきましょう。 展覧会の最初のコーナーは「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」。光と影、白と黒という相反する微妙なバランスの美を日本的表現ととらえて、黒をベースにしたファッションの深みを取り上げたコーナーです。 80年年代初頭に川久保、山本の両氏がパリに吹き込ませた黒主体の装いは「黒の衝撃」と呼ばれ、モードの歴史に深く刻み込まれています。日本でも80年代に黒ずくめのスタイルが「カラスルック」と呼ばれて、一世を風靡しました。 この秋冬は再び黒が世界的なトレンドになっているので、「陰翳礼讃」の展示作品は黒を操るコーディネート技を学ぶ絶好の機会となっています。 展示作品を見ると、単に黒一色でまとめ上げたのではなく、黒の微妙な諧調の違いや異素材の風合いを生かして、奥行きのあるレイヤードに仕上げる演出が効果的だという事が分かります。   2番目のコーナーは「平面性」がテーマ。これこそが日本ファッションと欧米との一番の違いとも言える点です。実は日本の服は「平べったい」のです。洋服の文化が明治以降に輸入された日本では、着物のカルチャーが先にあったおかげで、欧米とは異なる洋服文化が誕生しました。着物は畳んで1枚の薄い布地の形でしまうことができます。つまり、形としては「平面」なのです。 しかし、洋服はTシャツのような簡素なものは別にして、最初から立体として成型されています。着物は袖を通しただけでは外に出られません。いくつもの帯で締めたり整えたりしないと、「服」として機能しません。日本服は着る人の身体に寄り添わず、離れているところから固定していきます。一方、洋服はブラジャーやコルセットが示すように体型をある形に限定し、その立体感を際立たせるように設計されています。 カシュクールという形で欧米デザイナーが取り入れた左右非対称の打ち合わせも着物文化の遺産。東京ブランド「matohu(まとふ)」がシグネチャーアイテムとしている「長着(ながぎ)」もその名残を感じさせます。 平面的な仕立て文化を受け継ぎつつ、革命的な製法を編み出したのが、三宅一生氏の「プリーツ・プリーズ」です。小さく畳んでもしわになりにくく、広げればプリーツの織りなす陰影がムードを醸し出し、パーティーにも着ていける。日本的な平面美の追究から生まれました。イッセイミヤケはその後も布地と平面性の探求を重ね、1枚の布から切り出す「A-POC」も誕生。 この秋冬は、ボリュームのあるニットや、オーバーサイズのアウター、マニッシュな箱形シルエットのコートが脚光を浴びるので、展覧会でのボディーラインから離れてる自由なフォルム服は参考になりそうです。 会場には「アンリアレイジ」「ミントデザインズ」などの実力派日本ブランドの作品が集められていて、平面をまとうスタイリングを触発してくれます。   3番目の展示コーナー「伝統と革新」も、日本ファッションの特異性を物語る切り口です。欧米デザイナーはデザイン画を描く仕事に特化していて、素材の開発にはタッチしません。しかし、日本のデザイナーは自ら素材開発にまでさかのぼって、ものづくりに取り組む人が少なくありません。織物や染色の工場に足を運んで、熟練の技術を持つ職人さんたちと意見を交わしながら、素材を練り上げていくクリエイターも大勢います。 イッセイミヤケ」の服に代表されるテキスタイルへのこだわりは日本服の特質と言えそうです。「サカイ」や「ミナ ペルホネン」などのように真似のできない素材感がファンを引き寄せているブランドもあります。無縫製ニットという独自製法を強みとする「ソマルタ」も日本流のものづくりがクリエーションを裏打ちしています。 秋冬の着こなしの基本となるレイヤードでは、ニットやレザーなどの異なるマテリアルの風合いの差を際立たせるようなスタイリングが装いの奥行きを深くします。実は日本ほどたくさんの種類の服飾素材が身近な国はなかなかないのです。この素材に恵まれた国で、様々なマテリアルを組み合わせたレイヤードスタイルを楽しみたくなります。 最後の第4コーナー「日常にひそむ物語」は日本開催に当たって、新たに加えられた展示です。アニメやキャラクターなど、日本固有のカルチャーからインスパイアされて、服の背後に現代的な物語を横たわらせるアプローチを主題に据えています。若手デザイナーたちの作品が集められました。この秋冬のトレンドである、メンズ系アイテムを取り込みつつ、フェミニンに味付けする着こなしの参考になる作品も並びます。 ファッションとアート感性の両方を刺激してくれる展覧会で、固有の服飾文化を持つ国ならではの日本クリエイターの感覚を拝借して、この秋冬のおしゃれのヒントを見つけてみては。 Future Beauty 日本ファッションの未来性2012年10月8日(月・祝)まで東京都現代美術館(MOT)http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/136/  


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