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EVENT REPORT – 皐月茶会 –

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ジョージア・オキーフとお茶の調和する「CASA GALLARDAGALANTE 皐月茶会」

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特別な格式を持つ茶室として知られる、根津美術館庭園内にある「弘仁亭・無事庵」で、「CASA GALLARDAGALANTE(カーサ ガリャルダガランテ)」主催の茶会「CASA GALLARDAGALANTE 皐月茶会」が5月に催されました。今回はこちらのリポートをお届けします。この茶会でイメージソースに選ばれたのは、「カーサ ガリャルダガランテ」のシーズンテーマでもある、アメリカの現代画家、ジョージア・オキーフ(1887~1986年)。日本の伝統的な茶事を通して、オキーフの魅力も多面的に感じ取れるという素敵なイベントでした。

「ファッションの街」として有名な港区南青山にひっそりとたたずむ根津美術館は、都心の隠れ家的スポット。表参道駅から歩いて数分という絶好の立地にありながら、穏やかで落ち着いた雰囲気を備えた、「和」の美術館です。

「根津」という名前は、東武鉄道を育てた経営者の根津嘉一郎に由来します。東武鉄道は今年で開業10周年を迎えた東京スカイツリーを建てたことでも有名です。嘉一郎がこの土地を取得して私邸としたことが根津美術館の始まり。東洋美術に理解の深かった嘉一郎が収集した美術品を所蔵しています。

国宝「燕子花図屏風」をはじめとする、仏像、絵画、茶道具、漆工など、収蔵品の見事さで名高い美術館です。それに加え、庭園の素晴らしさで知られています。たくさんの樹木が丁寧に管理されていて、季節それぞれの景色を生み出しているので、どの時季に訪れても、心が洗われるよう。都心とは信じられないほどの野趣を感じ取れます。


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この庭園にはいくつかの茶室が点在しています。嘉一郎は茶人としても有名でした。その一つが「弘仁亭・無事庵(こうにんてい・ぶじあん)」。古来の茶室らしい風情を残した貴重な建築物です。広間の弘仁亭と、茶室の無事庵がつながった造り。普段は公開されていないので、今回の茶会はその意味からも貴重な機会となりました。

「20世紀のアメリカを代表する女性画家」。オキーフの紹介にはこういう表現が決まり文句のように使われます。晩年をアメリカのニューメキシコ州の砂漠地帯で過ごした彼女は花や動物の骨、周囲の風景を画題に選んで、孤高の表現を貫きました。暮らしぶりやファッションも飾らず、ぶれず、よりかからずのスタイルを守り、そのインディペンデントな立ち方は今も多くの共感とリスペクトを引き寄せています。

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最初に案内されたのは薄茶席の場となった弘仁亭でした。オキーフをイメージして、席主の「やなぎのにわ京菓子店」が用意してくれたお菓子2種を頂きました。この日の進行について説明してくれたのは、「ガリャルダガランテ」の「育ての親」とも呼べる山﨑修・パル常務執行役員です。

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「やなぎのにわ京菓子店」は店舗を持たない菓子店です。菓子職人の江見智彦さんとフードコーディネーターの三島葉子さんが2020年から、京都でスタートしました。「大切な人に食べてもらいたいお菓子」というコンセプトに基づいて、主にウェブサイトだけで販売しています(期間限定イベントでの取り扱いもあります)。

干菓子は砂糖菓子の「O’keeffe(オキーフ)」と麩焼き煎餅の「White Sands(ホワイトサンズ)」。砂糖菓子のほうはオキーフの描いた絵画『Sky with Flat White Cloud』の配色がモチーフ。寒天、砂糖、水でつくる寒氷(かんごおり)にジュニパーベリーの香りを付けました。「WhiteSands」はアイシングした麩焼き煎餅にフルールドセル(天日塩)を振り、砂のきらめきを表現したそうです。隠し味としてまとわせてあったのは、木の芽の香り。どちらも上品で丁寧な景色と味わいでした。

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茶席での愉しみに、素敵な茶碗との出会いがあります。今回の茶碗は、「カーサ ガリャルダガランテ」の2022年春の展覧会に参加した6組の作家がこの茶会に合わせてこしらえた特別な品々。作家それぞれの個性が際立つ茶碗がそろいました。

沖縄県の石垣島で農園を営みながら作陶に打ち込んでいる宮良断さんは島の空気を連れてくるような茶碗を用意してくれました。島内で採れる土に、地元の貝殻を混ぜて、ガラスのような透明感を引き出しています。磁土に貝殻を混ぜると、形が崩れてしまうものですが、宮良さんは器の形を保つ特殊な製法を用いて、作品を仕上げているそうです。一般的に茶席用の茶碗は桐箱にしまいますが、今回はあえて島に自生しているススキを手編みした籠に収め、蓋の留め具にはサンゴを用いています。磁土から籠まですべて石垣島の産物だけで用意してもらいました。

京都府生まれの明主航(みょうしゅ・わたる)さんは今も地元・亀岡市の工房で作陶に取り組んでいる創り手です。4歳の頃から陶芸教室に通い、京都精華大学で本格的に陶芸を学びました。「時間経過によって生まれる美」を意識しているそうで。制作工程に「朽」の感覚を取り入れているのは明主さんならではの作風。実際には新作なのに、まるで何年も時を重ねたかのような表情が備わっています。肌触りが柔らかいところも、茶のぬくもりが手のひらに伝わる点で茶碗向きと言えそうです。

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ガラス工房の「瑠璃庵」さんと天然パールブランドの「acoya(アコヤ)」さんがコラボレートした「acoya×瑠璃庵」も、「カーサ ガリャルダガランテ」で器を取り扱っているクリエイターです。「acoya」のディレクター、大地千登勢さんと、長崎県の吹きガラス作家、竹田礼人さんが海のムードを帯びた碗を用意してくれました。着色を一切しない、自然そのままのあこや真珠と、長崎に伝わるガラス技法の魅力が響き合って、唯一無二の茶碗が誕生しました。

小野象平さんが用意したのは「指描き化粧茶碗」です。指でサインを描くように模様を施す技法で作られています。強さとやさしさが同居するかのようなたたずまいが茶室の空間で静かに居場所を主張していました。高知県香美市で作陶を続ける小野さんは自ら山で土を掘り、釉薬の原料も自分で作っているそう。今回の茶碗では高知の荒土が珍しい質感を宿らせています。

大阪府富田林市にアトリエを構えている岩崎龍二さんの作品は「桜灰茶碗」。モグサ土という土を使い、名前の通り、桜の木の灰釉薬を使って、やわらかい発色を引き出しました。しっとりとした手触りは茶事にぴったり。釉薬の流れを残した表情がさらに趣を深くしています。自然な色味は薄茶のグリーンを引き立ててくれます。

種類の異なる、様々な器が選ばれていたのは、今回の大きな見どころでした。静岡県御殿場市にアトリエを構える吉田直嗣さんは「白磁鉄釉茶碗」を制作。外側は白磁で、内側は黒で仕上げられ、大胆なコントラストを印象づけました。白磁の穏やかで清らかなムードと、黒のクールでスタイリッシュな雰囲気という相反する世界が同居しています。

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特別な茶碗で薄茶をいただきました。「薄茶」といいながら、しっかり濃くておいしかったです。茶室内のしつらえ(道具や飾りなどの総合的なチョイスや配置)は茶人の中山福太朗さんがオキーフをイメージして整えました。大半の品は京都から持ち込んだそうです。たとえば、鹿の頭骨。野生動物の大きな頭骨はオキーフが好んで描いた画題でした。強い日射しが漂白した骨を砂漠で拾い集めていたともいわれています。色の鮮やかな花もオキーフ絵画の常連モチーフ。今回はビビッドカラーの洋花も茶室内に配されていました。細やかな心配りが格別のもてなしを印象づけています。

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抹茶を入れるのに用いる器と、抹茶をすくう茶杓です。薄茶器のほうはデンマーク製で、1940年代のガラス器。奥深いブルーが茶室の空間に涼やかさを添えました、一方の茶杓は「虫喰い茶杓」。飾らない風雅を醸し出しています。こちらもオキーフをイメージしたそうです。

茶席の面白いところは、こういった道具・小物類にも席主の細やかな心配りが行き届いているのを感じられる点です。今回のように、オーソドックスな型にはまらない形式の場合、さらに主催側の「遊び子心」がうかがえて、気持ちが弾みます。

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宮良さんの茶碗はススキの籠に収められていて、特別な野趣を帯びています。お母様が手編みで作ったそうです。石垣島の素材ならではの南国気分も茶室に運び込まれました。

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参加者全員で順番に6品の器を鑑賞しました。器を愛(め)でるのは、茶席の愉しみ。初めて集った者同士でも、茶室という狭い空間を共有し、同じ器を使うというところから、連帯感が自然と生まれ、目の前の器が会話のきっかけにもなります。

職業や年齢に関係なく、座を共にし、器の感想を述べ合うことによって、自由なコミュニケーションが生まれる感じでした。茶席にあまり慣れていないせいもあって、心地よい緊張感がありましたが、山﨑さんから「自由に楽しんでください」と言ってもらえたので、ぐっとリラックスしたムードの中、器それぞれを堪能できました。

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こちらの石もオキーフをイメージしています。オキーフが住んでいた山の積層の景観イメージを重ねました。トラの目のようだからか、「タイガーアイ」と呼ぶそうです。残り約6カ月となりましたが、今年の干支は寅なので、そこにも関連付けてあります。タイガーアイが宿しているという、邪を跳ね返し富を引き寄せる力が参加者に届くようにという願いが込められています。今回は釜の蓋を置いたり、柄杓を置いたりするのに使う道具「蓋置(ふたおき)」の見立てとして用意されました。

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参加者を驚かせるような演出も仕掛けられていました。たとえば、この花瓶はカジキマグロから出来ているそうです。山﨑さんから種明かしを聞いて、参加者はみんなびっくり。そんな遊び心も楽しめた会でした。

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続いて、無事庵に移動して、濃茶を頂戴します。濃茶席では茶人の中山福太朗さんに迎えてもらえました。

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中山さんは茶の湯を多彩な形で表現している茶人です。茶人のシェアハウス「陶々舎」の立ち上げに参加したのも、その一例と言えます。京都市内を流れる鴨川で振る舞う「鴨茶」や、各地での茶会、ワークショップの開催にも熱心に取り組んでいます。サステナビリティーはファッションの世界でも重視されるようになってきましたが、茶の湯でも現代につなげていくアプローチが求められていて、中山さんは多面的な活動で、茶の湯のサステナビリティーを推し進めていると映ります。

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この茶会のイメージに合わせて、中山さんが整えた道具で、濃茶と主菓子1品ももてなしを受けました。こちらの器は、先に紹介した明主さんの作品です。青モミジのようなモチーフを散らした器に、主菓子の「SABON(サボン)」が盛られています。この器も主菓子もオキーフをイメージしているそうです。

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丸っこくてぽってりした「サボン」は愛嬌のある姿です。オキーフが暮らした街、サンタフェを象徴するサボテンの蕾がモチーフになっています。サボテンをかたどったような朗らかなフォルムが微笑を誘います。白餡(あん)やこし餡を使いながらも、甘すぎることはなく、濃茶を引き立てる役目をしっかり果たしていました。

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中山さんから濃茶を頂きました。一般的には1人分ずつ、別々に立てることが多いようですが、この席ではまとめて立てて、茶杯に注ぎ分けるという手順に。珍しい仕草を見ることができました。もちろん、味は申し分なく、濃茶の醍醐味をしっかり味わえました。

伝統文化(和)と合理精神(洋)のクロスオーバーのようなところがあり、これもこの「オキーフ茶会」という席にふさわしい気がしました。決まり事にとらわれすぎない提案に心地よさも覚えました。そもそもオキーフと茶会という取り合わせ自体が和洋折衷タイプの斬新な発想です。

こちらの茶杯は大理石。これもオキーフをイメージしているそうです。中国・福建省の大理石でこしらえたものだそう。もともとは中国茶用でしたが、今回は濃茶を練るのに使いました。片口が付いているので、茶杯に注ぎ分けやすくなっています。注がれている器は白い色味とナチュラルな質感がオキーフ作品に共通する白っぽさに通じているように見えます。

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最後に茶器と匙(さじ)を鑑賞しました。匙のカーブがユニーク。茶器はヴィンテージ感があって骨董ライクな見え具合です。

茶器は韓国の古いものだそうです。寺院のお供えに用いていたものだとか。銅の合金が醸し出す風合いがミステリアス。匙は同じく韓国でも、さらにもう少し時代が古い品だといいます。かつては食事用だったので、割と大ぶりのこしらえ。手元のあたりには魚のしっぽのデザインが施されています。

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茶室内のしつらえは中山さんが京都から運んできた品々で整えられました。壁に掛けられた掛け軸もそう。江戸時代中期の禅僧、仙厓義梵(せんがい・ぎぼん)の作品。善悪が相対的な世界を示していると、中山さんから教わりました。

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中山さんから教わったことはいろいろあって、「小さな暗い空間に身を置いて、一つの行為に集中する時間は素敵だ」という言葉には感銘を覚えました。茶室内は薄暗いのですが、最初は暗闇に思えても、次第に目が慣れてきて、茶室内で目に入るようになった品々や所作もいっそう印象的に映りました。

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今回、お招きにあずかってあらためて感じたのは、「茶室」という空間の素晴らしさです。割と狭いスペースで、見知らぬ者同士が時間を分かち合うという行為は不思議な共有感をもたらします。限られた空間の中に、席主の心遣いが満ちていて、その配慮も一緒に愛でるのは、とても親密で優雅な時の過ごし方。今回のようにテーマが決まっている場合は、「どのあたりにオキーフ性を感じればよいのだろう」といった、ちょっとした謎解きのような面白がり方もできます。

オキーフ世界の奥行きを感じられたのも、今回の茶会で得られた収穫でした。「カーサ ガリャルダガランテ」ではオキーフの魅力を多面的に掘り下げているので、「アートと暮らす生活」も選べそう。根津美術館という特別感の高い「場の力」も手伝って、喫茶文化をはじめ、絵画、陶芸、ガラス、ジュエリーなど、たくさんのアート表現を一度に堪能できた、幸福で「口福」な時間でした。(文・ファッションジャーナリスト 宮田理江)